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育児支援・育児放棄
●エンゼルプラン
国は、平成6年12月16日に、文部省、厚生省、労働省、建設省と合同で「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」指針をうちだしている。
1.少子化への対応の必要性
平成5年のわが国の出生数は、118万人であり、これは、戦争直後(昭和22年)の268万人の半分以下である。また、女性が一生の間に生む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.46と史上最低を記録した。
少子化については、子ども同士のふれあいの減少等により自主性や社会性が育ちにくいといった影響や、年金などの社会保障費用に係る現役世代の負担の増大、若年労働力の減少等による社会の活力の低下等の影響が懸念されている。
こうした状況を踏まえ、少子化の原因や背景となる要因に対応して子ども自身が健やかに育っていける社会、子育てに喜びや楽しみを持ち安心して子どもを生み育てることができる社会を形成していくことが必要である。
子育てはとかく夫婦や家庭の問題ととられがちであるが、その様々な制約要因を除外していくことは、国や地方自治体はもとより、企業・職場や地域社会の役割でもある。そうした観点から子育て支援社会の構築を目指すことが要請されている。
2.わが国の少子化の原因と背景
(1)少子化の原因
(晩婚化の進行)
わが国においては、男女とも晩婚化による未婚率が増大している。昭和50年頃から未婚率は、どの年齢層においても上昇しており、特に、25歳から30歳までの女性についてみると、未婚率は昭和50年に18.1%であったものが平成2年には40.2%と飛躍的に増大している。
(夫婦の出生力の低下)
夫婦の持つ子ども数を示す合計結婚出生率は昭和60年には2.17であったが、平成元年には2.05とわずかであるが低下している。今後、晩婚化の進行が止まっても年齢的な限界から子どもを生むことを断念せざるを得ない人が増加し、出生率は低下傾向が続くという予測もある。
(2)少子化の背景となる要因
(女性の職場進出と子育てと仕事の両立の難しさ)
わが国においては、女性の高学歴化、自己実現意欲の高まり等から女性の職場進出が進み、各年齢層において労働力率が上昇しており、将来においても引き続き伸びる見通しである。一方で、子育て支援体制が十分でないこと等から子育てと仕事の両立の難しさが存在していると考えられる。
(育児の心理的、肉体的負担)
わが国の夫婦の子育てについての意識をみると、理想とする子ども数を持とうとしない理由としては、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないという理由がかなり存在している。また、晩婚化の要因としても、女性の経済力の向上や独身生活の方が自由ということのほかに、家事、育児への負担感や拘束感が大きいということがあげられている。
(住宅事情と出生動向)
わが国においては、大都市圏を中心に、住宅事情が厳しい地域で、出生率が低いという傾向がみられる。
(教育費等の子育てコストの増大)
平成5年の厚生白書によると、子どもを持つ世帯の子育てに要する経費は相当に多額なものになっており、夫婦と子ども2人世帯のモデルの場合、第2子が大学へ入学する時点での子育てコストは可処分所得の約70%と試算される。また、一方で、近年教育関係費の消費支出に占める割合も増加してきている。
3.子育て支援のための施策の趣旨及び基本的視点
(施策の趣旨)
子育てをめぐる環境が厳しさを増しつつある中で、少子化傾向が今後とも続き、子ども自身に与える影響や将来の少子化による社会経済への影響が一層深刻化し、現実のものとなることを看過できない状況にある。
従来から子育て支援のための施策は、国及び地方公共団体等で講じられてきたが、21世紀の少子・高齢社会を目前に控えた現時点において、子育て支援を企業や地域社会を含め社会全体として取り組むべき課題と位置付けるとともに、将来を見据え今後概ね10年間を目途として取り組むべき施策について総合的・計画的に推進する。
(基本的視点)
その際、以下の視点に立つことが必要である。
[1] 子どもを生むか生まないかは個人の選択に委ねられるべき事柄であるが、「子どもを持ちたい人が持てない状況」を解消し、安心して子どもを生み育てることができるような環境を整えること。
[2] 今後とも家庭における子育てが基本であるが、家庭における子育てを支えるため、国、地方公共団体、地域、企業、学校、社会教育施設、児童福祉施設、医療機関などあらゆる社会の構成メンバーが協力していくシステムを構築すること。
[3] 子育て支援のための施策については、子どもの利益が最大限尊重されるよう配慮すること。
4.子育て支援のための施策の基本的方向
子育てにかかる状況を勘案すると子育て支援のための施策の基本的方向は次のとおりとする。
(1)子育てと仕事の両立支援の推進
育児休業制度の充実や労働時間の短縮の推進をはじめ労働者が子育てをしながら安心して働くことができる雇用環境を整備する。さらに、低年齢児保育の拡充など保育サービスの整備を図るとともに保育所制度の改善・見直しを含めた保育システムの多様化・弾力化を進める。
(2)家庭における子育て支援
子育ては家庭の持つ重要な機能であることに鑑み、その機能が損なわれないよう、夫婦で家事・育児を分担するような男女共同参画社会をつくりあげていくための環境づくりなど含め、家庭生活における子育て支援策を強化する。
また、核家族化の進行に伴い、育児の孤立感や不安感を招くことにならないよう、安心して出産できる母子保健医療体制を整備するとともに、児童委員等のボランティアの協力のもとに地域子育てネットワークづくりを推進する。
(3)子育てのための住宅及び生活環境の整備
ゆとりをもって子どもを生み育てることができるよう、良質な住宅の供給及び住替えの促進等により、ライフサイクルに応じた住宅の確保が容易にできるようにするとともに、家族のだんらんのあるゆとりある住生活を実現する。
子どもの健全な成長を支えるため、遊び、自然とのふれあい、家族の交流等の場、児童厚生施設、スポーツ施設、社会教育施設、文化施設等を整備するとともに、子どもにとって安全な生活環境を整備する。
(4)ゆとりある教育の実現と健全育成の推進
子育て家庭の子育てに伴う心理的な負担を軽減するため、ゆとりある教育を実現する。また、青少年団体の諸活動、文化・スポーツ活動等の推進による多様な生活・文化体験の機会の提供、子ども同士や高齢者との地域社会におけるふれあい、ボランティア体験などを通じて子どもが豊かな人間性を育めるような家庭や社会の環境づくりを推進する。
(5)子育てコストの軽減
子育てに伴う家計の負担の軽減を図るとともに、社会全体としてどのような支援方策を講じていくか検討する。
5.重点施策
今後、子育てのための支援策としては、基本的方向にそって、教育、雇用、住宅、福祉の面で総合的に推進していく必要があるが、少子化の原因や子育て家庭の意識等に鑑み、特に、次の施策を重点的に実施する。
(1)仕事と育児との両立のための雇用環境の整備
[1] 育児休業給付の実施など育児休業を気兼ねなくとることのできる環境整備
雇用保険制度による育児休業給付を着実に実施する。また、事業主等に対し育児休業に関する相談・指導や円滑な職場復帰のための指導・援助を行う。
[2] 事業所内託児施設の設置促進など子育てしながら働き続けることのできる環境整備
育児期間中の勤務時間の短縮等の措置の普及を進めるとともに、従業員向けに事業所内託児施設の設置や育児費用の経済的支援を行う事業主に対し援助を行うことにより、事業主による育児支援措置への自主的取組みを促進する。
また、保育サービス等に関する地域の具体的な情報を提供するほか、育児相互援助活動への支援、両立支援施設の設置等地域における支援体制の整備を進める。さらに、仕事と育児との両立に必要な相談・指導・講習等を実施する。
[3] 育児のために退職した者の再就職の支援
再雇用制度の普及を促進するとともに、再就職希望者に対し、職業情報の提供や自己啓発への援助、多様な就業ニーズに合った講習や職業訓練などを実施する。
[4] 労働時間の短縮等の推進
年間総労働時間1800時間を実現するため、週40時間労働制の実現に向けた対策の推進、所定外労働削減に向けた啓発指導、及び年次有給休暇の完全取得に向けた労使の自主的な取組みの促進を図る。
また、働きながら子育てのできる条件整備を図る観点から、フレックスタイム制等の弾力的な労働時間制度の普及促進を図る。
(2)多様な保育サービスの充実
[1] 保育システムの多様化・弾力化の促進
保育所制度の改善・見直しを含めた保育システムの多様化・弾力化を進める。その際、駅型保育、在宅保育サービス等の育成・振興を図る。
[2] 低年齢児保育、延長保育、一時的保育事業の拡充
ア.低年齢児受け入れ枠の拡大
育児休業制度の定着、女性就労の増加等に伴い入所希望が増大すると見込まれる0歳児から2歳児までの低年齢児について、入所を必要とする低年齢児を保育所に受け入れられるようにする。
イ.延長保育の拡充
通常の保育時間(おおむね午後6時まで)を超えて保育時間の延長を行う保育所を誰でも利用できるよう都市部を中心として普及整備する。
ウ.一時的保育事業の拡充
母親が病気の時に緊急に児童を預けたり、仕事の都合で一時的な保育が必要なときに利用できるための一時的保育事業を普及整備する。
[3] 保育所の多機能化のための整備
延長保育、乳児保育、相談指導等の多様なサービスを提供するため、保母配置の充実等を図る。
また、保育所が、地域子育て支援の中心的な機能を果たし、乳児保育、相談指導、子育てサークル支援等の多様なニーズに対応できるよう施設・設備の整備を図る。
[4] 放課後児童対策の充実
昼間保護者のいない家庭の小学生(主に1年から3年)を対象に、児童館、児童センターや実情に応じ学校の余裕教室などにおいて、健全育成を行う放課後児童クラブを身近に利用できるようにする。
(3)安心して子どもを生み育てることができる母子保健医療体制の充実
[1] 地域における母子保健医療体制の整備
妊婦や乳幼児の健康診査、新生児訪問指導や保健指導等の母子保健サービスを住民に身近な市町村で一貫して受けられるようにする等、母子保健医療体制の整備を進める。また、周産期、新生児の医療の充実のための施設・設備の整備を推進する。
[2] 乳幼児健康支援デイサービス事業の推進
病気回復時の乳幼児で、保護者による家庭での育児が困難な児童が身近にデイサービスを受けられるよう乳幼児健康支援デイサービス事業を推進する。
(4)住宅及び生活環境の整備
[1] 良質なファミリー向けの住宅の供給
特定優良賃貸住宅、公団賃貸住宅等公的賃貸住宅の供給、住宅金融公庫融資等による良質なファミリー向け民間賃貸住宅の供給及び良質な持家の取得に向け積極的な誘導を図るなど、より質の高い住宅ストックの形成を促進する。また、公共賃貸住宅における世帯人員等に応じた住替えの促進を図る。
[2] 子育てと仕事の両立、家族のだんらんのためのゆとりある住生活の実現
子育てと仕事の両立及び家族のだんらんのための時間のとれる住生活の実現を図るため、職住近接を目指した都心居住を推進するとともに、住む・働くなどの多機能を有するニュータウンの建設を促進する。
また、新たな住宅団地の開発や既成市街地の再開発に当たっては、保育所等の計画的立地を推進する。
[3] 子どもの遊び場、安全な生活環境等の整備
公園、水辺空間などの身近な遊び等の場、家族が自然の中ですごせるオートキャンプ場、市民農園、自転車道等の整備を推進する。
また、ベビーカー、自転車等の安全を確保するための幅の広い歩道、コミュニティ道路、通学路等安全な生活環境の整備を推進する。
(5)ゆとりある学校教育の推進と学校外活動・家庭教育の充実
[1] ゆとりある学校教育の推進
新学習指導要領の趣旨の徹底などによる教育内容・方法の改善・充実、豊かな教育環境の整備、入学者選抜方法の改善等による受験競争の緩和などの施策を着実に推進することにより、ゆとりある学校教育の確保に努める。
[2] 体験的活動機会の提供等による学校外活動の充実
子どもが心身の調和のとれた成人となるために必要な生活体験・活動体験を豊かにするため、文化・スポーツ・社会参加・自然体験等の体験的活動の機会を提供する事業の充実、青少年教育施設の整備等により、学校外活動の充実を図る。
[3] 子育てに関する相談体制の整備等による家庭教育の充実
親が安心して子どもを生み育てるための家庭教育の充実を図るため、家庭教育に関する学習機会の提供、相談体制の整備や情報提供及び父親の家庭教育への参加促進等により、家庭教育に関する環境整備を行うとともに、幼稚園における教育相談や各種講座の開催など、幼稚園を核とした子育て支援事業を推進する。
(6)子育てに伴う経済的負担の軽減
幼稚園就園奨励事業の推進を図ることなどにより、幼稚園児の保護者の経済的負担の軽減を図る。
また、授業料等を含めた学生生活費の上昇などに対応して、育英奨学事業の充実を図るとともに、修学上の経済的負担の軽減等に資するため、私学助成の推進を図る。
乳児や多子世帯の保育料を軽減するとともに、共働きの中間所得層の負担軽減等の保育料負担の公平化を図る。
さらに、経済的負担の軽減の観点から、税制上の措置や児童手当、年金等の社会保障制度等を含め子育てコストへの社会的支援の在り方について検討する。
(7)子育て支援のための基盤整備
[1] 地域子育て支援センターの整備
子育て中の夫婦が身近に育児相談に出向き、保育サービスの情報提供、地域の子育てサ-クルへの参加などが可能となるよう、子育てネットワークの中心として保育所等に地域子育て支援センターを整備する。
[2] 地方自治体における取組み
都道府県及び市町村において、国の方針に対応し、計画的な子育て支援策の推進を図るなど地域の特性に応じた施策を推進するための基盤整備を進める。
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