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『国民優生法』


(昭和十五年法律第百七号)

   第一条
本法ハ悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有スル者ノ増加ヲ防遏スルト共ニ健全ナル素質ヲ有スル者ノ増加ヲ図リ以テ国民素質ノ向上ヲ期スルコトヲ目的トス

   第二条
本法ニ於テ優生手術ト称スルハ生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ処置ニシテ命令ヲ以テ定ムルモノヲ謂フ

   第三条
左ノ各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル者ハ其ノ子又ハ孫医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキハ本法ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ者特ニ優秀ナル素質ヲ併セ有スト認メラルルトキハ此ノ限ニ在ラズ
 一 遺伝性精神病
 二 遺伝性精神薄弱
 三 強度且悪質ナル遺伝性病的性格
 四 強度且悪質ナル遺伝性身体疾患
 五 強度ナル遺伝性畸形
2 四親等以内ノ血族中ニ前項各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル者ヲ各自有シ又ハ有シタル者ハ相互ニ婚姻シタル場合(届出ヲ為サザルモ事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ在ル場合ヲ含ム)ニ於テ将来出生スベキ子医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキ亦前項ニ同ジ
3 第一項各号ノ一ニ該当スル疾患ニ罹レル子ヲ有シ又ハ有シタル者ハ将来出生スベキ子医学的経験上同一ノ疾患ニ罹ル虞特ニ著シキトキハ亦第一項ニ同ジ

   第四条
前条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ハ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ本人配偶者(届出ヲ為サザルモ事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ在ル者ヲ含ム以下之ニ同ジ)ヲ有スルトキハ其ノ配偶者ノ同意ヲ、三十歳ニ達セザルトキ又ハ心神耗弱者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母(婚姻ニ依リ其ノ配偶者ノ家ニ入リタル者ニ在リテハ其ノ配偶者ノ父母トス以下之ニ同ジ)ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
2 前条ノ規定ニヨリ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者心神喪失者ナルトキハ優生手術ノ申請ハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ家ニ在ル父母之ヲ為スコトヲ得但シ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者及其ノ家ニ在ル父母之ヲ為スコトヲ得
3 第一項及前項但書ノ場合ニ於テ其ノ配偶者知レザルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ第一項ノ場合ニ在リテハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ以テ配偶者ノ同意ニ代ヘ前項但書ノ場合ニ在リテハ其ノ家ニ在ル父母ノミニテ申請ヲ為スコトヲ得ルモノトス
4 前三項ノ規定ニ依リ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ要ストセラレ又ハ其ノ家ニ在ル父母ガ申請ヲ為ス場合ニ於テ父母ノ一方ガ知レザルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ他ノ一方ノミノ同意又ハ申請ヲ以テ足リ父母共ニ知レザルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ後見人ノ、後見人知レザルトキ、ナキトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ戸主ノ、戸主知レザルトキ、未成年者ナルトキ又ハ其ノ意思ヲ表示スルコト能ハザルトキハ親族会ノ同意又ハ申請ヲ以テ父母ノ同意又ハ申請ニ代フルモノトス但シ後見人及親族会ハ第二項ノ規定ニ依ル申請ヲ為スコトヲ得ズ

   第五条
第三条第一項ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ニ対シ監護上ノ処置、保健上ノ指導又ハ診療ヲ為シタル精神病院法ニ依ル精神病院(同法第七条ノ規定ニ依リ代用スル精神病院ヲ含ム)若ハ保健所ノ長又ハ命令ヲ以テ定ムル医師ハ本人ノ同意ヲ得テ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者ノ同意ヲモ、三十歳ニ達セザルトキ又ハ心神耗弱者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲモ得ルコトヲ要ス
2 前項ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為ス場合ニ於テ本人心神喪失者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母ノ同意ヲ以テ本人ノ同意ニ代フルモノトス
3 前条第三項及第四項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス

   第六条
前条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者本人ノ疾患著シク悪質ナルトキ又ハ其ノ配偶者本人ト同一ノ疾患ニ罹レルモノナルトキ等其ノ疾患ノ遺伝ヲ防遏スルコトヲ公益上特ニ必要アリト認ムルトキハ同条ノ規定ニ依ル必要ナル同意ヲ得ルコト能ハザル場合ト雖モ其ノ理由ヲ附シテ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得

   第七条
優生手術ノ申請ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ニ之ヲ為スベシ
2 前項ノ申請ニハ本人ノ健康診断書及遺伝ニ関スル調査書並ニ本人(本人心神喪失者ナルトキハ其ノ家ニ在ル父母トス但シ本人配偶者ヲ有スルトキハ其ノ配偶者及其ノ家ニ在ル父母トス)ガ優生手術ガ生殖ヲ不能ナラシムルモノナルコトヲ了知シタル旨ノ医師ノ証明書ヲ添附スベシ
3 第四条第三項及第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス

   第八条
地方長官ハ優生手術ノ申請ヲ受理シタルトキハ優生手術ヲ行フベキモノト認ムルヤ否ヲ決定ス
2 地方長官ノ決定ヲ為サントスルトキハ予メ地方優生審査会ノ意見ヲ徴スベシ
3 地方長官第一項ノ決定ヲ為シタルトキハ第四条又ハ第五条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者及優生手術ノ申請ニ付同意ヲ得ルコトヲ要ストセラレタル者ニ之ヲ通知スベシ

   第九条
前条第三項ノ規定ニ依リ通知ヲ受クベキ者ハ同条ノ決定ニ不服アルトキハ厚生大臣ニ之ヲ申立ツルコトヲ得
2 前項ノ申立ハ決定ノ通知ヲ受ケタル後(通知ヲ受ケザル者ニ付テハ決定アリタル後)三十日ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ズ
3 厚生大臣宥恕スベキ事由アリト認ムルトキハ前項ノ期限経過後ニ於テモ仍之ヲ受理スルコトヲ得

   第十条
厚生大臣ハ前条ノ申立ヲ受理シタル場合ニ於テ申立ヲ理由ナシト認ムルトキハ之ヲ却下シ申立ヲ理由アリト認ムルトキハ地方長官ノ決定ヲ取消シ且優生手術ヲ行フベキモノト認ムルヤ否ヲ決定ス 2 厚生大臣前項ノ却下又ハ取消及決定ヲ為サントスルトキハ予メ中央優生審査会ノ意見ヲ徴スベシ
3   第八条第三項ノ規定ハ第一項ノ却下並ニ取消及決定ニ之ヲ準用ス

   第十一条
第四条又ハ第五条ノ規定ニ依リ優生手術ノ申請ヲ為スコトヲ得ル者及優生手術ノ申請ニ付同意ヲ得ルコトヲ要ストセラレタル者ハ書面又ハ口頭ヲ以テ中央優生審査会又ハ地方優生審査会ニ対ン事実又ハ意見ヲ申述スルコトヲ得
2 厚生大臣又ハ地方長官ハ中央優生審査会又ハ地方優生審査会ノ審査ノ為必要アリト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ第三条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ヲシテ審査会ニ出頭ノ上事実ヲ申述セシメ又ハ医師ノ健康診断ヲ受ケシムルコトヲ得

   第十二条
中央優生審査会及地方優生審査会ニ関スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

   第十三条
優生手術ヲ行フベキモノト認ムル決定確定シタルトキハ第三条ノ規定ニ依リ優生手術ヲ受クルコトヲ得ル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ優生手術ヲ受クベシ
2 優生手術ハ厚生大臣又ハ地方長官ノ命ニ依リ命令ヲ以テ定ムル医師命令ヲ以テ定ムル場所ニ於テ之ヲ行フ
3 前項ノ規定ニ依リ優生手術ヲ行ヒタル医師ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ経過ヲ地方長官ニ報告スベシ

   第十四条
優生手術ニ関スル費用ニ付テハ勅令ノ定ムル所ニ依ル

   第十五条
故ナク生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ放射線照射ハ之ヲ行フコトヲ得ズ

   第十六条
第十三条ノ規定ニ依ル場合ヲ除クノ外医師生殖ヲ不能ナラシムル手術若ハ放射線照射又ハ妊娠中絶ヲ行ハントスルトキハ予メ其ノ要否ニ関スル他ノ医師ノ意見ヲ聴取シ且命令ノ定ムル所ニ依リ予メ行政官庁ニ届出ヅベシ但シ特ニ急施ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
2 前項ノ届出アリタル場合ニ於テ行政官庁必要アリト認ムルトキハ其ノ指定シタル医師ノ意見ヲ更ニ聴取セシムルコトヲ得
3 第一項但書ノ場合ニ於テ届出ヲ為サズシテ生殖ヲ不能ナラシムル手術若ハ放射線照射又ハ妊娠中絶ヲ行ヒタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官庁ニ届出ヅベシ

   第十七条
優生手術ヲ受ケタル者婚姻セントスルトキハ相手方ノ要求ニ依リ優生手術ヲ受ケタル旨ヲ通知スベシ

   第十八条
第十五条ノ規定ニ違反シ生殖ヲ不能ナラシムル手術又ハ放射線照射ヲ行ヒタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ処ス

   第十九条
中央優生審査会及地方優生審査会ノ委員若ハ委員タリシ者又ハ優生手術ニ関スル審査若ハ施行ノ事務ニ従事シ若ハ従事シタル公務員若ハ公務員タリシ者故ナク其ノ職務上取扱ヒタルコトニ付知得シタル人ノ秘密ヲ漏泄シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
2 前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ

  第二十条
第十六条第一項又ハ第三項ノ規定ニ違反シ届出ヲ為サズ又ハ虚偽ノ届出ヲ為シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス

  附 則

本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム
昭和22年法律第223号による改正。
優生保護法(昭和23年法律第156号)36条により、本法は昭和23年9月11日をもって廃止。



【関連法令】
→ 『国民優生法施行規則』
→ 『国民優生法施行令』
→ 『優生保護法』
→ 『母体保護法』
→ 『堕胎の罪』



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